三百円の夢

2/50
前へ
/64ページ
次へ
「父さんが夢を買ってきたぞー」  母と妹と俺の三人が晩飯を食べている時のことである。  父が帰ってきた。  あたりはもうすっかり暗くなっている。  そろそろ危ない人が出る時間だ。  そう言えばいきなり夢を買ったなんて言う人は、危ない人に分類されるのだろうか? そんなことを考えながら、とりあえず父を玄関の外に追い出す。 「おいおいどうしたつっちゃん、そんなに背中を押して」  にこにこ顔でこちらを振り向きながら、玄関の外に追い出される父親は、俺がドアを閉めて鍵をかけたところでようやく疑問を抱いたようだ。 「ん? 鍵をかけたら父さんが家には入れないじゃないか」 「大丈夫だよ父さんなら頑張れば鍵をあけれるから」 「そうなのか? なら少し頑張ってみるよ」  ボケを真に受けられた。  本当にドアの向こうでごそごそし始める我が父親。  何故か冗談だと言えない空気が流れている。  とりあえず様子を見ることにした。 「あら? かいとさんはどうしたの?」  おっとりとした調子で尋ねてくる母、海原美波。見た目は実年齢の半分以下と言っても過言ではない。 「今念力で鍵をあけようとしてるよ」 「あら、やんちゃなんだからあの人は」  母の目には父の奇行がやんちゃとして映るらしい。  これは眼科に行けば治るのだろうか? それとも精神科だろうか?
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加