三百円の夢

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 なんだろうこの疎外感。  まるで俺だけ周りと価値観の違う世界に住んでるみたいだ。  実際は逆なのだけど。 「まあそれで父さんは百万円をどうしようかと思ってな、とりあえずコンビニで半分ほど募金してきた」 「ウソ……だろ」 「ああウソだ」  ビシッ  父親の頭にチョップをたたき込む。 「それで百万円手に入れたってのもウソ?」 「いやそれは本当だ」  真剣な表情で答える父。どうやら本当らしい。願わくば視線を外してもらえるとありがたい。  少し気持ち悪い。 「それで百万なんて大金どうしたら手にはいるわけ?」 「殺し屋に狙われていた老人を助けたらお礼に貰った」  それはどこの国のどの時代を舞台にしたなんて名前の映画だ! 「さすがにそんなに貰えないと言ったんだが、どうしても形のあるものでお礼をしたいと言われてな。どうしても断れなかったんだ」  話を聞き進めてみると、どうやらその老人はどこぞの大会社の社長らしい。  もう結構な歳らしく、残りの人生では使いきれない金なんだから遠慮しないで下さい、と言われ父が折れたらしい。 「まあ困ってる人にわけていったら三十万ほどしか残らなかったんだがな」  バカだ!バカがつくほどのお人好しだ!  しかも半分以上なくなってんじゃねぇか!! 「それで残った金はどうしたわけ?」  嘆息してから父に視線をぶつける。 「お前が欲しがってたマウンテンバイクを買って」「え、マジで!」  心臓が高鳴って暴れだす。興奮で指先が震えだす。 「どこ! マウンテンバイクどこにあんの!?」  身を乗り出して父上に尋ねる。  すると父上は手のひらを突き出してくる。  生命線長いなぁ。 「まあ待て。お前の欲しがってたマウンテンバイクを買って"やろうと思ったんだが"、銛乃(もりの)が欲しがってたマンガとアニメのDVDを買ったら買えなくなっちゃった。てへぺろ(・ω<)☆」  てへっと舌を出す父親。  きもい。  吹き飛べ。  そもそももらった金を半分以上ばらまくからこうなったんじゃないのか?  どうやらうちの父親は、お人好しがつくただのバカらしい。 「すまんなぁ。思ったよりアニメのDVDって高くって」  手を合わせて謝ってくる父親A。  まあこうなると思ってたさ。これっぽっちも期待してなかったから。少しも喜んでなんかなかったから!  あー……ちくしょう。
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