三百円の夢

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 まあ欲しかったマウンテンバイク高いしな。俺が欲しいもの買って、妹が何もなしじゃ可哀想だからな。うん。これでいいんだ。俺はもう大人だから。このくらい全然平気だから。  はぁ…………。 「変わりに残ったお金で別のマウンテンバイクを買ったんだ。それで勘弁してくれ」  手を合わせる父。  つくづく思う。どうしてこの父親はこんなにバカなんだろう。  謝る必要なんてこれっぽっちもない。むしろプレゼントを買ってきたと言って胸を張っていればいいのに。  まあ、そうゆう性分なんだろう。  このままだとずっと手を合わせたまま固まってそうだし、仕方ない。仕方ないから礼を言ってあげよう。うん。これは仕方ないから礼を言うんだ。  よし。 「ありが――「それで結局夢を買ったって、私のと釣人のチャリってこと?」待てやコラァ」  なんでこのタイミングで話しだすのかなぁ、我が妹よ。 「あぁ夢を買ったってのはこれのことだよ」  そう言って父は胸のポケットから一枚の紙切れを取り出す。  こっちも完全に気にしてないよ……。  内心ため息をつきながら、父が胸のポケットから取り出した紙切れに視線を向ける。  宝くじだった。 「この一枚だけ?」  恐る恐る訊ねる。 「あぁこの一枚だけだ」 「こんなモン当たるかァ! 一枚買っただけで宝くじが当たると思うなよ!」  満面の笑みの父親に怒鳴り散らす。  すると母親がふふふ、と含みのある笑みを溢した。 「じつはかあさんも夢をかっていたのよ!」  そう言って母も一枚の紙切れを取り出す。  宝くじだった。  父の夢は、今朝拾った五百円で買った宝くじだった。  母の夢はスーパーで買い物したおつりで買った宝くじだった。  合計二枚である。  インド人もびっくりだよ!
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