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彼はある場所まで来るとぴたりと止まる。
きっと彼も我に返ったのだろう。こんな恐ろしいところには来てはいけない、と。
「ねぇ、この先は、危ないって、っ言われているのを知っているでしょ…?」
私は息を整えながら途絶え途絶えに聞く。彼は目を見開いて驚きを隠せないと言ったふうに私を見つめる。
「な、何よ…」
「何を言ってるの?この先にあるのは楽園だよ」
彼はにっこりと私に向かって笑って見せた。そう言うとぐいぐいと中に足を踏み込んで行く。
「…楽園って…ちょっとっ」
次の言葉は前に立ちはだかる大きな布張りの壁を見て飲みこまされた。
そこら辺で拾われてきたような布が何枚も重ねられ、一枚の大きな壁を作っていた。
両脇のビルの壁から壁まで布が渡され、ここからでは奥の様子を伺うことは全くできない。高さはざっと見て三メートルといったところだろうか。
私はその高々と張られている布を呆然と見上げいた。
開いた口が塞がらないとはまさにこのことなのだ、と悟った。
ふと私の手が圧迫されるのを感じた。
彼が私の手を強く握り絞めたからだ。
私はやっと隣りに彼がいたことと、自分が今置かれている状況を思い出した。私は咄嗟に彼の手を振り払ってしまった。
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