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その中に黒い服を全身に身に纏う二十歳前後の男が煙草を吹かし、足を組んで座っているのが目に入った。
綺麗に磨かれた黒の革靴、それを隠すかのように覆う襟の立った長い羽織り。その一つ一つが彼の存在をより際立たせていた。
下を向いていた男の目線が真っ直ぐに私に向けられる。私の心臓が一度高鳴るのを感じた。
彼は目を離さず私の目を見つめる。私も目を逸らさずずっと彼を見つめた。いや、逸らさなかったのではない。逸らせなかったのだ。全てを見透かされそうな目から。
彼の目からは吸い込まれそうなほどの冷酷な闇と、恐怖。その両方を感じ取ることができた。
まるでこの世の全てを否定しているかのような、寂しい目だ。
「…こんばんは」
実のない冷ややかな笑い、そして何の変哲もない言葉。
なのに身が総毛立つような恐怖。
彼の威圧全てに捕われたかのように私はその場から動けなくなってしまった。
それが彼、司との初めての出会いだった。
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