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私は彼に見とれてしまい、知らないうちに口が開いてしまっていたのだ。
慌てて両手で口を押さえて隠すが、もはや手遅れ。沸騰するのではないかと思うくらい顔が熱くなるのを感じた。
恥ずかしくて顔が上げられない。泣きそうなのをぐっと堪えて唇を噛み締める。
「…っぷ」
私が勢いよく顔を上げると、目の前に堂々と座る男の顔が歪み、手の甲を唇に押し当てて笑いを堪えている姿をとらえた。
「な、なに…」
「っいや…ごめん。なんか面白くて…くくっ。」
私は彼を不思議そうに眉を寄せて見つめていた。
そんなふうに笑う彼をすごく愛おしく感じたんた。
「なにー?何がそんなに面白いのー?」
後方から聞こえてくる声の主の方を見ると、無邪気に笑みながらかけてくる少年の姿があった。
彼を動物に例えるならば犬だな、と思った。しかも子犬。
尻尾を振りながらご主人様に請うその姿はとてもほほえましい光景だった。
人懐っこくてとても可愛い。
「いや、べつに何も面白くないよ。」
先ほどまで緩んでいた頬を今ではきつく結び、しれっとした態度で男が答えた。
「えーさっき珍しく笑ってたじゃんよ。」
「そーだっけ?忘れちゃった」
身のない笑いを浮かべる。
「…まぁ、いいけどさー。」
少年は食いつきもいいが諦めも早かった。
耳を垂らし、尻尾を力なくさげてしょげているようにも感じた。
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