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「…君…」
その人影が私の肩に手を置いた。
「っひッ…」
私はその手を振り払ってしまった。
しまった、と思ったときにはもう遅かった。残酷に殺された自分の姿が一気に頭を過ぎる。
殺される、そう思ったその時――
「…大丈夫、何もしないから、落ち着いて」
そう私を宥めるように言って、私の前に屈み込み顔を覗き見る。
にゃー
猫も私に寄ってきて身体を擦り付ける。
私はゆっくり顔を上げた。
そこにいたのはまだあどけなさが残る笑顔を見せる少年だった。
街の明かりに照らされる白い肌。その白さに比例するように被さる漆黒の髪。
小顔で目も大きく、そして澄んでいた。鼻筋が通ったバランスの取れた良い顔立ち。唇は薄く、両端を上げて私に優しい笑顔を向けていた。15、6才ぐらいだろうか
「…どう、落ち着いた」
私は少年の問い掛けに我に返る。つい、少年の顔に見取れてしまった。そして安堵する。
――よかった…
「あ…はいっ大…丈夫です」
私は無意識のうちにさっき猫に向けた笑顔を彼に向けてしまった。彼は少し驚いた顔をしたが、すぐにまた優しい笑顔に戻って言った。
「そんなことより、こんなところにいたら危ないよ」
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