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「…あなたこそ…」
「ありがとう、でも俺は大丈夫…」
そう言った時の彼の表情はどこか寂しげで、見ているこっちまでもが悲しい気持ちになった。
「さあ、早く家に帰りな。知ってると思うけど、ここは君が来るようなところじゃない」
そう優しく言うと立ち上がってズボンを叩き、私に手を差し延べる。
私はその手をぼんやりと見つめていた。
「どうしたの」
彼は私がぼおっとしているのを不思議に思い、尋ねる。私は俯いて、ただ、首を降るだけ。また視界が霞み始める。次々に地面を涙で染めていく。
「…帰れ…ッな…」
私はまた泣き崩れてしまった。彼は再び私の前にしゃがみ込み、頭をがしがし掻いて困った顔をしていた。
「あー…家出…?」
彼は下から覗き込みながら聞く。
私はまたあの光景を思い出して震え出した。
「…あ…ぁあッ…」
彼はポケットから煙草とライターを取り出すと、一本だけ口に鍬え火を付ける。
ッボ
――スハーッ
私は彼が吐く息の音を聞きながら涙を流す。
「一体何があったの」
彼は私の隣に壁に背を預けて座る。片膝を立ててそこに煙草を持つ右腕を乗せている。
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