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言えない。言えるはずがない。
――人を殺してしまっただなんて…
警察に突き出されるかもしれない。
「…人…」
彼は明るく燈る街を指差しながら言った。
「…殺した?」
私は一瞬泣き止み、震えも止まる。
――なんで…
「さっきあっちのほうで人が群がってたから俺も見て来たんだ」
と、にかっと私に笑って見せた。
私は茫然と彼の目を見ていた。
「…違う?」
私は何も言えずに唇を噛み締め、押し黙った。
「もう一つ俺がそう思った理由は…そのきみの腕。血が付いてるよ」
私の手を取り、ね、というふうに冷たい笑顔を向けながら私に腕を見せる。
私は自分の腕を見て怖くなって、彼の手を振り払い必死に返り血を拭き落とそうする。しかし、その血は乾ききっていて、なかなか落とすことができなかった。
――どうして…
擦りすぎて腕が赤くなり、ついには血が滲み出てきた。
――お願い…取れてえッ…
私は何かに取り憑かれかのようにその作業を行っていた。
私の血と、私が殺した人の血が混ざる。
「ちょっ…何やってんだよ。」
そんな様子を見ていた彼が強引に私の手を取り止めさせる。
私は俯いたまま押し黙っていた。
彼は私の手を取り立たせると、あの“踏み入れてはならない脇道”へと引っ張る。
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