41人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
｢…じゃあその涙はなに？｣
｢…これは、｣
｢それはイチの為の涙でしょ？｣
イチを思って溢れた
あなたの本心
『こんなに近くにいるのに』
『あなたには俺がいるのに』
『こんなにも好きなのに』
『いっそ、嫌いになれたら』
俺にはその涙が、
そう聞こえる
｢……。｣
｢嫌いな人のために
わざわざ涙は流せないでしょ｣
すきだから泣くんだ
想ってるから苦しいんだ
慧くん、
あなたはそれに
気づいてるんだから
自分から捨てたらだめだよ
｢りょっ…く、｣
｢…ん？｣
｢イチ…、イチがすき…
イチに、あいたいっ…｣
しがみつくように
俺の服を掴む慧くん
そんな弱々しいのを
前にしてほとんど無意識
に彼を抱き締めた
｢なんでっ…
なんでわかってくれないんだ｣
｢うん｣
｢すきなのに、すきなのに！｣
｢うん｣
｢いっそ嫌いになれたら
こんなに苦しくなかったのに｣
｢うん、そうだね｣
｢でも…すき、
すきだ…やだよ、もう｣
｢…慧くん｣
ぎゅー、と少し力を加えた
…慧くんちっちゃいな
｢大丈夫、俺がいるよ｣
｢っえ？｣
｢ひとりじゃないから。｣
だからもう、
今度からはひとりで
苦しまなくていいんだよ
そう言うと慧くんは
俺の背中に手を伸ばし
少しぎこちなく力を込めた
…俺が、あなたを
守ってあげるからね。
えんど
最初のコメントを投稿しよう！