始まり始まり

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それはよく晴れた春の夜のことだ。 本屋で私はマンガを立ち読みしていた。 いつもは1時間くらいで退散するのだけど、その時は夢中になって時間を忘れてしまっていた。 『おい桜、そろそろいい加減にして帰らないか?』 言われて本屋の時計を見ると、いつもより随分長く立ち読みしてしまっていた。 今私に声をかけたのが小此木 椿。 いつからかは分からないが、かなり昔から存在する私のもう一つの人格だ。 私は小此木 桜。主人格だ。 私達はいわゆる二重人格なのだ。 でも記憶は共有しているし、今のように声を発さなくても心の中で会話が出来る。 ちょっと変な二重人格なんだよね。 ちなみに、私に両親はいない。 物心ついた頃から施設にいたから、生きているのかどうかも知らない。 家族は椿だけ。 「うわっもうこんな時間じゃん!」 まだ読みかけだった本を元の場所に戻し、小走りで本屋を出た。 本屋の明かりや、車のライトが眩しい内は特に危機感は無かった。 しかし近道の暗い道に入ると、流石にちょっと怖かった。 「あちゃーすっかり暗くなっちゃってる…」 町の明かりが届かない場所に立って初めて分かる夜の暗闇。 『女の子の一人歩きは危険だな。交代しようか?』 椿はいつも私を助けてくれる頼もしい存在だ。 だけどちょっと不安な気持ちを、椿には秘密にする。 心で会話するとは言え、思ったことが全部筒抜けと言うわけではない。 そんな恥ずかしいことがあってたまるか! 「椿だって女の子でしょうが。大丈夫だよ、不審者が出るわけでもないし」 「あら、あなた達随分面白そうね」 何も無かったはずの目の前に突然大きな裂け目と、金髪の女性が! 「ぎゃああああ!!不審者出たあぁ!」 『だから言ったじゃん!交代だ、今すぐ変われ!』 一瞬体が痙攣し、私と椿のいる場所が入れ替わる。 ってか何あれ! あんなイリュージョンを披露するなんて、これが噂のプリンセステンコーなのか!?
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