おとぎ話

許婚

「えー、もう帰ってしまわれるのですか？」

「仕方ないでしょう、アン。クリスはお仕事がお忙しいのですよ」

シュンとする私をお母様がなだめるように優しく言う。

「ごめんなさい、僕のアン。僕がもっと優秀ならば、もっと貴女との時間を作ってあげられるのに」

でも、お母様よりももっと優しく私に話しかけてくれるのは、私の許婚のクリス様。

「もう少ししたら、ハロウィンにクリスマスがあるでしょう？ハロウィン翌日には、貴女の誕生日パーティーがあります。誕生日パーティーで、貴女は僕の正式な婚約者になるんですよ」

私の手を握り、優しく優しく言い聞かせてくれる、クリス様。

「いやです。ハロウィンまで待てません」

クリス様が優しく私の話しを聞いてくれるから、私も一秒でも一緒にいたくて、わがままを言ってしまう。

子供の頃は純粋にわがまま言ったのに、今は計算ずくでわがまま言ってしまう、私はずるい。

「そんなアンも、本当にかわいい。早く婚約者ではなく僕の妻にしたいです」

でも、クリス様はそんなずるい私まで、全部包んで愛してくれてる。

「では、今すぐにでも私をクリスのお嫁さんにして下さい」

「…困りましたね。僕もそうしたいんです。本当は。でも貴女を妻として迎えるために、準備と勉強が必要なんです。大切な、大切な貴女のために」