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その日、俺は中古のレコードショップで掘り出し物を漁っていた。
CDショップ?細かい事は言わないでくれよ。
確かに買うのはCDさ。家にあるターンテーブルには蜘蛛の巣が張ってあるからね。
でも、俺が探してる掘り出し物ってのは、レコードがまだ全盛だった頃のアーティストのモノだ。
だからレコードショップでいいんだよ。
こういうのは気分の問題だからね。
お気に入りを何枚か見繕って、一枚か二枚は冒険をしてみる。
聞いた事の無いアーティストとか音楽雑誌の片隅に載ってるマイナーな連中のヤツをね。
こういうのは一種の博打だよね。
これは、ってモノに出会える事もあるし、一度だけ聴いて、俺じゃない御主人様の下に帰してやる時だってある。
当たった時はほんとに楽しい。
もう、次の給料日にはそのアーティストの既存の盤を全て買い求める位だ。
漫画やアニメだってそうでしょ?
そうやって買い求めたモノを懐に抱えて、お気に入りの流行らない喫茶店にシケ込む。
BGMに今し方買った冒険アーティストのCDを流して貰うのさ。
これがデスメタルやノイズ、宗教音楽の類なら、タダでさえ客の来ない喫茶店の客足が更に遠のく。
そりゃそうさ。
ドアを開けて、いきなり男の奇声が耳に飛び込んできたら、殆どの奴は御邪魔しましたってなるよ。
でも俺はそんな我儘を聞いてくれるこの店を愛している。
そして、今この時がとても幸せだ。
俺の名前は五島悠紀夫。
親父の会社でエンジニアをやってる、洋楽好きな勤労青年だ。
どんな会社かって?
最近流行りのサーヴァント・アンドロイドを作っているイヴ・コーポレーションの下請け会社だ。
所謂召使ロボットって奴さ。
値段は車一台買う位の金額だ。
それで身の回りの世話をしてくれるなら、と案外需要があるんだ。
暴走とかそういう類の事故も起きてない事もあり、結構普及している。
会社は造形とメンテナンスを受け持っていて、俺はメンテナンスの部門で働いている。
まあ、俺の自己紹介はこれ位にしておこうか。
俺の事なんかより、これから起こる事の話を聞きたいだろうからね。
そう、あの日。
俺は喫茶店でマスターとダベった後、アパートに向かう所だったんだ。
ふと、空を見る。
瞬く間に空一面がTVの砂嵐の様に変化したんだ。
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