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「あっ、はい!」
慌てて霄瓊が動き出す。
部屋の隅に移動して、クローゼットの奥から畳まれた服と纏めてある小さな荷物を二人分取り出した。
そして、その片方を静嵐に差し出す。
「こちらが、静嵐の分ですから」
「ああ」
静嵐が受け取ると、霄瓊は着替えの為に脱衣所に向かう。
側を通る時、彼女の刻印が服の上からでもはっきりと感じられた。
あの左腕に刻まれているのは契約の証であると共に、死の印でもある。
それはいずれ刻まれた者を壊し殺す。
時経つ毎に大きくなって行く刻印の力から逃れる術は無い。
契約者によってそれぞれその期間は差があるが、今までで一年保った試しは無い。
そして既に静嵐と霄瓊が契約してから半年が過ぎた。
あと半年もすれば、あの目障りな娘は勝手にいなくなる。
今ももう、気を抜けば引きずられる感覚を霄瓊も味わっている筈だ。
見事な位、それを静嵐には悟らせないけれど。
だからだろうか、こんなに苛立つのは。
先程渡された服を手早く身に付けながら、静嵐は思う。
早く失せろ、と。
道具としては使えても、これ程気に障るのではやっていられない。
考える冷たい瞳が光を帯びた。
それは弱さとなり得る感情を全て捨てた者の、残酷な光。
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