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見上げた空はもう暗い。
つい先程まで明るかったのに、数分の内に辺りが夜へと変わる。
道行く人々は冷たい風に身をすくめて早足で歩いて行く。
霄瓊【しょうけい】もマフラーに顔をうずめるようにして、いつもと同じ道を辿る。
今日は世間的には休日だからか、寒くても人は多い。
楽しそうに会話をしている家族連れや恋人達と何度もすれ違い、いつの間にか目を伏せていた。
何も考えなくても体が勝手に慣れた道を進んでくれるのが、今は有り難い。
日常と同じように途中にあるスーパーで買い物を済ませて再び暗い道に出る。
しばらく歩いて幾度か角を曲がり、自分が住む小さなアパートに着いた。
二階の自分の部屋を見て明かりが点いているのを確認し、小さく息をつく。
階段を上がりながら、強張った顔で意図的に笑顔を作る。
それが例え唇の端が少し上がっただけの微笑だとしても。
意地でも笑っていようと決めたから。
弱い所を見せたくない。
今日も自分を拒絶するに違いないあの人の前では。
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