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部屋のドアの前に立ち、ノブを握って静かに開ける。
「……ただいま」
靴を脱いで中に入ると、座って新聞を読んでいた男がちらりと目を向けて来た。
それきり何も言わずにまた視線を落とす様子に、小さく笑んで急いでコートを脱ぐ。
部屋は一つきりで小さな台所と風呂が付いただけのこのアパートは、一人暮らしの者向けに建てられたものだろう。
しかし、霄瓊には同居人がいた。
一緒にいてもほとんど口をきかないし事あるごとに拒絶や殺気の空気を放つ、気が休まるどころか疲れる相手だったけれど。
それでも離れる訳には行かないから。
そっと自分の腕を押さえてから、霄瓊は台所に立った。
髪を軽く結わえて、夕食の調理に取り掛かる。
やがて調理を終えて運んで行っても、同居人はまだ新聞を読んでいた。
だがテーブルに器を並べて向かい側に腰を下ろすと、黙ったまま新聞を畳む。
霄瓊も普段から口数が多い訳では無いから、二人の食事はほとんど無言の内に終わる。
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