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「そんで、そのフンコロガシのどこがカッコいいんだ?」
「ばっか、お前、このフンコロガシの良さが見極めれねーなんて、相変わらず小物だなぁ又次郎ぉー!
見ろ!このクソを転がすフォームを!イカしてるじゃねぇか!」
「まー確かに凄いとは思うが…
ほら、このページのカブトムシの方がカッコよくね?」
「ばか、勝手にページ捲るな馬鹿次郎!」
「誰が馬鹿次郎だ!俺は太郎だ!」
「大体なぁ、カブトムシなんぞ木に張り付いて蜜ちゅーちゅー吸ってるだけじゃねぇか!
フンコロガシなんて砂漠だぞ!?
カラッカラの砂漠で一匹クソを転がすんだぜ!?すっげぇクールじゃねぇか!」
それからというもの、俺とコイツはこんな感じだ。
最近じゃ、仕事帰りは必ずこの裏山に足を伸ばすのが習慣になってきた。
最初は、隙をついて何かされるのでは、と警戒していた俺だったが、コイツのペースに飲み込まれ、今じゃこんな関係だ。
コイツは、全く幽霊という気がしない。
足だって透けてないし、体の輪郭だってしっかりしている。見た感じは生きている人間そのものだった。
しかし、死んだ当時のままのその姿が物語っていた。
―――――自分は、死んだのだと。
死んだ存在なのだ、と。
「あー、いいなぁ昆虫図鑑!これ見たら動物図鑑も欲しくなってきた!」
「…おいおい、勘弁しろよ。俺みたいな平社員が稼ぐ給料を何だと思ってんだ。」
「何だよ、いいじゃねぇか。
どうせ貢ぐ相手もいねぇんだろ?」
おい、最後の言葉は聞き捨てならんぞ。
“貢ぐ相手”ぇぇ?
こめかみに青筋が立つ。
口角が不自然に上がり、体がわなわなと痙攣し出す。
「俺だって永遠をッ!信じていたかったんだああぁあぁぁー!!!!」
「ぎゃーっはっはっはっ!!!!やんのか馬鹿次郎ぉぉぉ!!!!」
「馬鹿次郎じゃない又次郎だ…じゃねぇ、太郎だこのアホチビぃぃい!!!!」
「ぎゃーっははははは!!!!自分で名前間違えてやんの!!ばーかばーか!!!」
死んだ相手と取っ組み合する人間なんて、世界中探しても俺だけじゃないだろうか。
本当に死んだのか?と疑いたくなる程しっかりと実体をもっているコイツだが、つねった頬はやはり氷のように冷たかった。
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