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古今東西、幽霊と聞いて連想するもの。
黒の長髪、白い着物に血走った瞳。
水と井戸と日本家屋はオプションで。
ホラー全般が苦手な俺としてはここいらで限界だ。怖い、幽霊超怖い。修学旅行の夜とかに嬉々として怪談話し出す奴らの気が知れない。
聞こえないようにして枕を被って眠ったのがいい思い出だ。
ともあれ、幸運なことに俺は霊感という霊感がさっぱりで、幽霊さんともばったり遭遇することもなく、ぬくぬくと今まで過ごしてきたのだが
「…おい又次郎!おれの話を聞いていたのか!」
「ええっとー、猫の糞に頭から突っ込みそうになった、だっけ?」
「それは三十分前の話題だ、この万年体調不良男!今はこの世界とハサミの関係性を証明していたんだ!」
そう言いながら、小さな手で裁縫用の大きな裁ちばさみを持ち、そこいらの草を容赦なく切り刻むコイツはやはりどこかおかしい。
だぼだぼの真っ黒のパーカーから出る素足は細く、被ったフードからは大きくて無愛想な瞳が覗いていた。
「いいか又次郎、世界とは実に脆弱なものだ。そもそも我々人間から見た世界など、たった一つの偏見に過ぎな―――」
「又次郎じゃなくて、太郎だっつってんだろ。
お前はいつになったら人の名前がきちんと言えるようになるんだ。
アホみたいな演説する前に、目の前の人間の名前くらい覚えろ。」
「うるっせぇ!細けぇこたぁいいんだよばーか!又次郎の方が何かカッコいいだろうが!」
「馬鹿はお前だ馬ー鹿!全国の太郎に謝れ!
…で、お前の裁ちばさみで雑草を容赦無く切り刻むその行為とこの話は一体何が関係しているんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!そもそもこの地球とは――――」
(……訳がわからん。)
再び嬉々として訳の分からない世界観やら何やらを論じるアイツを見て、俺は先を促したことを深く後悔した。
筋も通ってない、根拠もない、限りなく空想じみた、そんな世界観を自信に満ちあふれた表情で語るアイツを止める術など俺には無い。
俺はすっかりしわくちゃになったスーツ姿で、雑草生い茂る地面に腰を降ろした。
見上げれば実に良い星空が広がっていた。
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