愛しい人

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あれから14年……     きっちりとスーツを着こなしてる1人の男、イスに座り1人の女に話しかけている。         『結花……』     その名前を呼ぶが返事をしない愛しい妻、どんなに触れても、どんなに愛していても、その目が覚める事は未だにない     32歳になった俺は2年間刑務所に入っていた。 親殺しはあまり世間じゃ騒がれなかったらしい、警察も俺の事を精神が病んでいるんだと、聞く耳もたててくれなかった。     造り物の妹、狂った父親……     そして       息子に求愛する母親     全部俺の妄想だのと誰も信じてくれなかった。 就職は父さんのコネで簡単に入れた。 誰も俺が父さんを殺したなんて知らないんだ……     14年眠り続ける結花……     あなたの声が聞きたい   あなたに触れてもらいたい   俺を、見つめてもらいたい       君との約束は全部はたした。 俺に、約束をください               ガラ……     『父さん』   『ん、一也』   『何やってんの?もう遅いから早く帰るよ』       もう1人、俺の大切な   愛しい息子     俺が刑務所にいる時すでに、結花の中で眠っていた一也 未熟児だったって聞いた。 手術で一也は保育器の中に入れられ、俺が出所するまでの2年間病院にいた。     初めて一也を見た時、幼い俺を思い出した。 うっすら結花に似ていて、なおかつ俺に似てかっこよかった。    今じゃ14歳、もうすぐ受験生になる。 けして裕福な家庭じゃないけど俺は一也と二人で生活している。 毎週日曜は結花のお見舞いに、俺の左手の薬指と結花の左手の薬指にはお揃いの指輪が……         14年と長い月日の中、俺は幸せに暮らしていた。           そう、幸せだと思っていた。    
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