導入篇

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φ  金曜日の放課後、騒々しい教室で椅子に座り、帰り支度を整える。家で使わないであろう教科書も一応カバンに入れると、予想外に重くなった。  これから自転車で帰宅することを思えば、置いていくべきだが……まあいい。  「お前には友達が何人いる?」と俺は言った。  「愚問だな。ボクの友達は軽く億を越える」と隣に立つヨウゾーは言った。  「訊いた俺が馬鹿だった」  「ああ」彼は優雅に肯いた。「確かにキミは馬鹿だよ、賢太郎」  言い返すことができない。  二人しかいない親友の片割れである彼の偏差値が俺より高いのは事実だ。もっとも、彼は学年一位の常連だ。  しかも腹立たしいことに、努力など一切しない天才なのだ。  「いいよな、お前は。頭良くて」  「心にも無いことを言わないでくれ。ボクは模試で点数をとることしかできない凡人だよ」  自分のことをボクと呼ぶ生徒はマイノリティだが、ヨウゾーほど上手く使いこなす人間はいない。  ナルシシズムを感じさせる鼻に掛かった物言いで、上背もあり、女受けがいい。  宝石をちりばめた王冠が頭に乗っていても、ああなるほど、ここが王冠のあるべき場所なのだ、と納得できるような男だ。ヨウゾーが河川敷で寝泊まりしたり、泥をかぶってスポーツに興じたりしても――それはそれで絵になるかもしれないが――全く似合わないだろう。
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