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「はぁ…」
空気が重い。
曇天の空の下、緩い歩みで道を歩く。
むわっとした湿気を含む風が纏わり付いて彼女の短めの髪を揺らしていった。
両手で大切そうに抱えている綿入れの袋の中にはお祖母ちゃんに貰ったオルゴールが入っている。
そのオルゴールが壊れてしまって、どうにか直そうと町の楽器屋やら金具店やら思い当たる場所を訪ねたのだが…
「ムリ…なのかな…。」
どの店でも「このオルゴールは構造が難しくて扱えない」と断られたのだ。
はぁ、とまた一つ溜息を付いた時
「ねぇ」
「え?」
「ねぇ、君、どうしたの?」
どこ?
声の主を見付けようと辺りをキョロキョロと見渡すがそれらしい影はない。
スッとオルゴールの入った袋を左側に持ち、落とさないように紐を腕に通す。
ふと視線をなだらかに下る野原に落とすと草に埋もれた男の子を見付けた。
「だれ…?」
声の主はゆっくりと起き上がってこちらを向く。そして左手を差し出して言った。
「おいで」
優しい声。ブロンドの髪に夜を思わせる垂れ目がちな濃紺の瞳。
彼の回りは時間が止まっているように穏やかだ。私は引き寄せられるように彼の手を取る。
そして促されるまま、そのすぐ隣に座った。
そこではっとした。
「え…、」
だれ?ともう一度問おうとした私は、彼の行動に言いかけた言葉を言うのを止めた。
「ここにいたんだね…」
そう言う彼の手は壊れたオルゴールの入れてある袋を優しく撫でている。
その表情がとても優しげで…、
「壊れちゃった…」
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