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「そろそろ行くよ。これ以上いるとまた名残惜しくなっちまうから」
「ええ、くれぐれもーーいや、頑張って。
あなたなら大丈夫」
市葉は本当は『気を付けて』と言いたかったのだろう。でも言えなかった。それは『軍人』に向けては絶対言ってはいけないことだから。
そんな市葉の気遣いに権道もまた気づいていたのか、薄くそれに微笑むだけで返事として、彼女に背を向けた。
そして彼は歩き出す。
振り返らずに真っ直ぐに。
そびえ立つ要塞の外面はあらゆる攻撃を受けてもうボロボロである。それでも中は大したもので外のボロボロさに比べれば傷一つなく、綺麗だった。
「ここから俺の新しい人生が始まんのか!!」
そう思うだけで権道はこれから始まるものにワクワクしていた。
始めるのは『軍人生活』であり、それがいいことばかりではないことはもちろん権道だって知っていた。
「見ててくれよ。岸さん、俺--」
それでも一つの胸に固めた決意が彼の心を躍らせている。
「ピースメーカー?」
「え……?」
突然後ろから声を掛けられて振り返ったらそこにいたのは自分と同じ三等兵の軍服を着た女性だった。
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