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にんまり、と。少女の深まる笑み。
ソレはある種、危険な領域にまで踏み込んでいるような、総毛立つ悪寒を催させる。
気付けば、それとは裏腹な気安さで口をついた言葉。
背の丸まりが些か増強され、窺うような疑問。
「マジ、殺る気でした?」
「ああ」
聞くまでも無いだろうーー?
そんな即答に、男は速答を返せずに頭を抱える。倫理とは何か、必死で問いただしたくなった。
「血が霞、肉がこ削げる戦場では、野生の勘に忠実な者か、もしくは最上の幸運を受けた幸せ者のみが生き残る」
あまりに唐突に始まった演説。
目線だけ持ち上げて窺うと、勝ち気な瞳とバッチリ眼が合った。
一拍を置いて、若干、嬉しげに細まった金眼。
「だが貴君“ら”は此処に配属されたということは既にッ、いかな見目麗しい女神からも見放されたことに他ならない。よって」
調子付いた高音を混ぜた声音で、複数形。
掲げられた銀剣の切っ先が、男を通り過ぎ、その先に向けられる。
男の背面側。
今さっき彼、彼女らがノックと共に入室し、その後きっかり十五秒後に飛び込んできた殺戮幼女が蹴破った扉が位置する壁に、押し潰されて張り付いてしまった蚊か蠅のような風情でへばり付く男女を指し示す。
幼女剣士から見て、扉左側。
男。両手を胸の前まで持ち上げて揃えた、エセ猫拳法のような姿勢。
黒の瞳は驚きに見開いている。
主に幼女の突発的殺人行為によってだろう。
視線は流れて、扉右側。
女。両目を固く閉じ、右手を真っ直ぐ後ろに伸ばして、左手の五指を計算され尽くした角度で開き、その人差し指と中指だけを額に付けた、まるでダンサーのような決めポーズを見せている。
「運ではなく、如何なる状況においても生き残れる実力の有る者のみを、私は認めるッ」
掲げた刃のその先で、三人を見据え少女は叫ぶ。
「では改めてようこそーー王立騎士隊が“穂先”にして“攪拌機”。最前線騎団、通称“自殺志願隊”へッ!」
後に知ったことだが、通称ではなく正式な部隊呼称らしい。
泣きたい。
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