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ぼんやり深紅を見ていると不思議そうに少年が首を傾げる
「義兄様?」
少年の声に我に帰り少年へ振り返る
「何でもない、それよりリンス。」
少年の澄んだ瑠璃色の瞳を見詰め口を開く
「私の生存は周りに伝えたのか?」
「ううん、まだだよ。
それがどうかしたの?」
「ならば誰にも伝えるな。
父上にもだ。」
首筋を撫で笑みを顔に刻み付ける
「キリア・スヴァニエルは行方不明のまま。
此処にいるのは別人だ。」
「は…?」
虚を突かれたような顔をして此方を見る少年
その柔らかい金髪を撫でてやる
「私には成すべき事がある、悪魔に魂を売り渡してまで…な。」
青年の笑みが深くなる
首から頬まで駆け上がる証を撫で口を開く
「お前には苦労を掛けたな、リンス。
私の事は忘れてくれ、それがお前の為だ。」
「義兄…様…」
少年を抱き締め一時の平穏を甘受する
飛び込む禍の深さを図りながら
迫り来る日々を見詰める為に
優しい時間を忘れない為に
「さらばだ、私の可愛い義弟…」
柔らかな光に背を向ける
義弟に餞別として貰った服を纏い闇を歩む
背後からは艶やかな笑みを浮かべた青年が静かに付き従う
「お前は私に何を望む?」
振り返らずに問うと深い深謀を孕んだ声が響く
「前にも言ったが…
私の退屈を紛らわして欲しい。
まぁ、お前達人間の一生など私からすれば光のような物だがな。」
蠱惑的な瞳が嬉しそうに蠢く
「然し、時にはそれが多大な刺激にも成りうる。
それだけ人間とは変化に富む生き物なのだよ、我が主。」
「下らんな。」
饒舌に話す青年を一蹴する
「私は私だ。
もうスヴァニエルのキリアではない。」
鼻で笑うと青年は整った顔を近付ける
「それが面白いのだよ、人間。」
紅と紺の瞳が此方を見据える
「変化する物は生き残る。
進化とは変化の歴史なのだよ、分かるかい人間。
では我が主は一体何に変化したのであろう?」
唇に指を当て小首を傾げる青年
その顔には隠しきれぬ喜悦を滲ませて
その整い過ぎた顔を睨み付け鼻で笑う
「無意味だな。」
残念そうな顔をしながら青年は楽しそうに囁く
「フフフフ…手厳しい。
でもこの世の中には意味のない事等有りはしないのだよ、若き人間。
それを特別に教えてあげよう。」
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