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アイツの『なんとなく』はそれこそ気持ち悪いくらいに当たる。
アイツは『予感』とかなんとか言っていたけど、生憎と俺はそこまで自分のことを信じられるような人間じゃない。
だから『なんとなく』なんだ。
学校到着、十分なんてあっという間だよな。運動部の掛け声は今日も絶好調。元気があってよろしい。
日当たりが悪い二年B組が俺の教室、一番のりに心踊らせ開けっ放しの扉の前に立つ。
そして固まる。
教卓の上でどこぞの勇者みたいな大演説を教卓の上で一人、コミカルに再現するアイツに、俺の密かな楽しみを盗られたかと思うと虚しい気持ちがこみ上げてきた。
アイツがおかしいのは知ってたから、大演説辺りはスルーだ。一々構ってられない。
ババ臭い掛け声で教卓から降りた所まで静かに見守る。それしか選択肢がなかったんだ。そして俺と目が合うとしまったと顔を強ばらせた。
沈黙、すると何を思ったか、アイツはフレンドリーな外国人のような口調で何かをまくし立て始めた。
ノート献上くらいしか聞き取れなかったけども。
ポンと俺の肩に手をやったかと思うと奴はいきなり走り始めた。
よくわからないがアイツの事だ、放課後まで反省会という名の昼寝大会でも開催する気だろう。
とりあえず追ってみる。なんとなく、追わないといけない気がして後を追う。
青春みたいだ、まぁ、青春時代真っ盛りだが。
相手もそれはお見通しなようで、それをついた言葉を俺に突き刺した。
遂には俺のことを脇役とまで言い放つ。少年Dの謎が今明らかに! どうでもいいよ、そんなの。
これらが効かないなんてのは嘘、結構傷付いた、俺がこの類に関して涙もろいのを知っての事だ。酷い。
とは言ったって、もうこの程度じゃ泣かないけど、昔は泣いたのかだなんてナンセンスな質問はお断り。
西側トイレの門を曲がって、そのまま直線、階段を基本四段飛ばしで三回これを幾つか登って行く。
行き先はやっぱり屋上だった、俺がなんでアイツを追っかけてるのかは知らない、なんとなくだ、なんとなく。
突然である、アイツが叫んだ。私の本当の力をうんたらってさ。
アイツの走るスピードが上がった、ただでさえ無駄に速いというのにだ。そして飛ぶ。
階段を四段飛ばしをしたかったようだ、足を滑らせたアイツが俺に降ってきた。これが俺のスローモーションを人生初体験した日ね。
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