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ある日の夕暮れ。
悠里と帰路を歩んでいると、何人かの子供が、少し離れたところで話しているのが見えた。
子供達は大きな声で互いにさよなら、バイバイと交わしていた。
「可愛いね、小さな子供って。」
悠里は言いながら慈愛の笑顔を僕に向ける。
僕もつられて頬が緩んだ。
「あ、あの子こっちに来るみたいだよ。」
僕が指し示すと、輪の中から外れ、帰り道を辿り始めたであろう女の子が、僕達とは逆方向に歩き始めた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバイ!」
すれ違う時、女の子は僕と悠里に向かって可愛らしく手を振った。
僕達はそれに対し同じ言葉、同じ行動で返した。
「懐かしいね、あれぐらいの頃が。」
「そうだね。懐かしい…ね。」
悠里は空を見上げた。
「昔ね、バイバイって言うのが嫌だったの。」
淋しげな、懐かしげな、そんな顔でつぶやいた。
「どうして?」
「えっとね、バイバイって今にしてみれば魔法の言葉だと思うんだ。」
ふと悠里が振り返る。
僕もつられて振り返ったが、そこには僕達が通った平凡な道があっただけだった。
「友達と遊んで、空がオレンジ色になるまではしゃいで、お月様が起きる前には帰らなきゃって。だからバイバイって。そこで私の一日は終わり。だから淋しかったの。」
そうだな、と答えながら思い返した。
友達と遊んでばかりいた頃。
あの頃は知らない世界ばかりで、好奇心旺盛だった僕は楽しく過ごしていた。
でも夕方になればバイバイと言って友達と別れ、布団に入るとき考えていたのはいつも明日のことだった。
まるで明日を追いかけるように。
「少し時が経ってからさ、夜に遊ぶことを覚えて、あの淋しさを掻き消すように夜遅くまで遊んでたなー。」
悠里のため息混じりの言葉に応えるようにカラスが鳴く。
今日はもう終わりだよ、そう教えてくれるみたいに。
「夜遅くまで遊ぶようになると忘れちゃうよな、明日を追いかけてた小さな頃のこと。」
「大人に近づくにつれて、明日に追いかけられるもんね。それって淋しいよね…。」
悠里は言いながら俯いたと思えば、すぐに顔をあげて笑顔になった。
「たまには明日のことを楽しみにしながら寝てみようよ!ね?」
それから僕達は明日のことを話した。
あれが楽しみ、これが楽しみ。
ずっとワクワクしながら話した。
まるで明日を追いかけるように。
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