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「突然ですがクイズです!」
元気よく言い出した悠里は最近勢いを増してきた太陽のようだった。
夕暮れのプラットホーム。
そこは世界から切り離されたようにしっとりと静まっていた。
「どうしたの、悠里。」
時々通り過ぎていく可愛いげなそよ風は、橙色の光を運んでいく。
街まで映画を見に行った帰り道。田舎の無人駅で乗り換えの電車を待っていた。
「女の子は何で出来ているでしょうか?」
悠里は愛くるしい朗らかな声で問いかけた。
僕は少し考えてから指を三本立てた。そして一つずつ答えながら指を折る。
「確か……砂糖とスパイスと素敵なもの、だっけ?」
マザーグースだったかな?
正直うろ覚えだけど、少しだけなら覚えている。
「お、やるなー!じゃあさ、男の子は何で出来ているでしょうか?」
「男の子?」
「そう、男の子。」
おうむ返しする僕に彼女は優しく復唱する。
男の子か、としばらく考える。
「ビー玉とお星さま、それから素敵なもの、かな。」
「キラキラしてて可愛いね、それ。男の子はいつまで経ってもキラキラ輝いてるもんね。」
悠里が小さくはにかむ。
夕日が反射した丸いほっぺたが、妙に眩しかった。
「じゃあさ。」
今度は僕から質問する。
「未来は何で出来ているでしょうか?」
少し悪戯っぽく言ってみる。
悠里の真似をしたつもりで。
彼女自身もすぐに気づいて、じとりと睨み、ぷくりと頬を膨らませた。それが妙に子供っぽくて、僕は吹き出さないように、口元を隠す。
しかしすぐに僕の質問の答えを模索する。
「うーん……。未来、かぁ……。」
少し離れた場所から踏切の音が流れはじめる。
カンカン、カンカン。
揃った音階が侘しさを増長させていく。
カンカン、カンカン。
「こんなのは、どうかな?未来はね……。」
悠里は僕の背後に回ってからきゅっと抱き着いた。
「男の子と女の子、それから素敵なもの、なんちゃって。」
ぷしゅーと電車が到着した時の独特な音が辺りに響く。
侘しさはふわふわと溶けていき、代わりに降り積もったのは暖かくて、柔らかい気持ち。
じゃあ、僕と悠里はもう未来を作れるかな。
なんて、言葉にはしないけど思ってみたり。
「ほら、早く乗ろ?」
背中から悠里が促す。
僕は夕暮れのプラットホームから一歩、踏み出した。
未来に向かっている気がした。
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