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「ねぇ、誰にでも翼があるんだよ!」
昼下がりの午後、ぽかぽか太陽のもと、僕と悠里は近所の小さな公園で、悠里のお手製弁当に舌鼓を奏でていた。
「ん…。どういうこと?」
ランチボックスは二つあって、サンドイッチとおにぎりが数個入ったものと、おかずが敷き詰められたものだった。
僕は後者に箸を伸ばし、卵焼きをつかみ取り、それを頬張った。
軽く咀嚼し、体内に流し込むと、僕は悠里に聞き返した。
すると悠里は人差し指を自分の額に当て、目をつむりながら唸った。
「うーん…。例えばさ、自分ってダメだな~って思ったことない?」
それは悠里が考え込む時の無意識な癖であり、本人もまだ気づいてないのではないのだろうか。
「あー、あるかも。」
僕はそう言うと、今度はサンドイッチに手を伸ばす。
「でしょ?そんな時ふと思うんだ。みんなにはバサバサと羽ばたくための翼があるのに、私には羽根すら生えていないんだなって。」
少し、わかる気がする。
きっと誰にでもある小さな経験、いつだったか忘れてしまった幼い悩み。
他人が羨ましかった頃が僕にもあった。
きっと悠里にもあったのだろう。
「でもね、翼は背中についているから、人の翼は見えても自分の翼は見えないんだ。だから…いつしか自分には翼がないって思ってしまう。」
そう言いながら、さっき自動販売機で買ったアップルジュースのペットボトルを開封した。
ぷしゅっ、と小さな音が暖かい太陽のカーテンに埋もれていった。
「だから人はみんな、自分の翼を見てくれる人を探している。だって安心できるから。私にも翼があるって確認できるから。」
開封したペットボトルの飲み口に唇をつけた。
コクンと可愛く喉を鳴らして、アップルジュースを一口飲んだ。
それから僕に笑顔を向けて一言。
「ねぇ!私にも翼はあるかな?」
ふと日光がさっきよりきつくなった気がした。
逆光になっていた悠里の笑顔は、文字通りまぶしくて見えなかった。
それでも僕は彼女に小さくつぶやいた。
「うん…。綺麗な翼がついてるよ。」
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