テノヒラノソラ

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ギーコ、ギーコ。 古びた自転車のペダルが一定のリズムを奏でる。 「ねぇ、悠里!次はどこへ行く?」 ペダルを踏みながら後ろの荷台にまたがった悠里に話しかける。 「空が一番近い場所!」 季節は夏。 太陽が青空で輝き、なにもしてなくても汗が噴き出す。 そんな季節。 図書館で勉強していた僕と悠里は、気晴らしに自転車の二人乗りで町のいろんな場所へ行くことにした。 僕達が通っていた中学校 小さい頃によく遊んだ公園 廃駅になった小さな駅 二人で遊んだ児童館 昔に戻ったような錯覚を感じた。 「空が一番近い場所?」 ゆるやかな坂道を立ち乗りでぐいぐい登った。 「うん!ほら、あそこだよ!」 悠里が指で示した方向を見る。 町の展望台…と言っても高台みたいな窓もなければ屋根もない場所だった。 「わかった!飛ばすからしっかり掴まっててよ!」 「うん!きゃっ!」 ぐんとペダルを力強く踏みつける。 びゅんと自転車がスピードを上げた。 悠里は驚いたような、嬉しくてたまらないような、そんな声をあげた。 「速い速い!風がね、すっごく気持ちいいよ!」 興奮気味の悠里が僕にギュッとしがみつく。 ほどなくして僕達は展望台についた。展望台の下に自転車を停め、それを見上げた。 「よし、先行くよ!」 悠里が走り出す。悠里を追って長い階段を登り、展望台に出た。 「わぁ……。」 僕が展望台に着くと、悠里は空を見上げていた。 「手が届きそうだな…。」 僕も見上げながら、そうつぶやいた。 「手が……そうだ!」 悠里が突然携帯を取り出して、空に向けた。 電子音が短く鳴った。 「ほら、手が届いた!」 悠里は僕に向かって携帯の画面を見せると、そこにちょこんと指を置いた。 携帯の画面には青空が切り取られていた。 「僕も、届いた。」 悠里の指の隣りに自分の指を置いた。 「多分ね、ここは世界一空が近い場所だよ。」 悠里は微笑みながら再度空を見上げた。 そして背伸びをしながらぐっと手を伸ばした。 空に一番近い場所で僕達はそっと微笑んだ。
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