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「世界は逆さまに輝いているんだね。」
窓から暖かい夕陽が差す夕方。
僕の部屋で勉強していた悠里が言った。
僕は目の前の問題集から視線を変え、正方形の机を挟んだ向かい側に座る悠里に向けた。
「実像、だな。」
悠里はどこから取り出したのか透明なビー玉を持っていた。
そしてそのビー玉を通して、僕を見ていた。
小学校…いや、中学校だろうか?
光の屈折の授業で、虚像と実像を習ったことがある。
どちらも凸レンズを通して見えるものだ。
簡単に説明したら『虚像は拡大されて見える』『実像はやや小さくなって反転して見える』。
ビー玉にもその現象があるらしく、悠里は僕の実像を見ていた。
「実像…かぁ。」
ビー玉をつまんだ細い指が夕陽でほんのり橙色に染まっている。
「実際の映像って書く実像は逆さまなのに、虚言の映像って書く虚像は拡大されるんだよね。」
悠里は僕が気にも留めなかった事を言った。
「そうだな…。」
「じゃあ世界は本当に逆さまなのかもしれないね。」
「…そう、かもな。」
そう返すと、悠里は笑った。
「でもね、逆さまでも世界は輝いているんだよ。」
ビー玉を窓の向こうに見える夕陽にかざして、笑った。
悠里の隣りに座ってビー玉を覗き込んだ。
「…丸いものは逆さまになっても変わらないけどね。」
「でも輝いてる。優しく輝いているよ。」
夕陽色に輝く透明なビー玉の元、僕たちは逆さま世界に微笑んだ。
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