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「おっ、きたきた鞄♪」
夏は俺たちを見つけると、憎たらしいほど満面の笑みで、渋面の俺と御古島を迎えた。
「よぉ、久しぶりだな。なっちゃん」
御古島が俺の隣で手をあげる。
夏はきょとんとした後、少し考える素振りを見せた。
「佐渡島……君?」
「それは正真正銘の島だ。こいつは御古島だ」
俺は御子島に同情した。
「また名前を忘れたのか?」
「まぁまぁ。島だけ覚えておいてくれただけで十分成長がうかがえるじゃねぇか」
御子島はさわやかスマイルをふるまった。気持ち悪い。
「御古島もバカか。こいつに合わせるんじゃねぇ。何回も会った人の名前を忘れるのはクセでも性格でもねぇ。ある種の病気だ」
夏は、御古島と聞いても未だ脳内でその位置が確立されていないみたいで、ひとさし指を眉間に這わせていた。
これはもう夏の記憶力云々ではなく、御古島の印象づけの悪さが招いているのではなかろうか。
「なんでこんなとこで立ってたんだ?」
「手ぶらで校門くぐったら変な目で見られるじゃん」
夏は、鞄を催促するように右手を差し出した。
「それもそうか」
俺は肩から重荷を下ろして手渡す。
「じゃあ、お先に」
そして、軽々と推定10kgの黒い鞄を持ち上げて、颯爽と走り去っていった。
その後ろ姿を眺望しながら御子島が。
「可憐だ」
「………」
俺は御古島を睥睨しながら無言で放置プレイを決め込み、先に校門をくぐった。
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