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校門を抜けて真っ直ぐ突き出た並木道を通り、校舎の中に入って下駄箱に向かう。
下駄箱から上履きを取りだして、すのこの上に無造作に放る。
「やぁ、久しぶりだね」
永海<ナガミ>の本当に久方ぶりの声を耳に通した。
思わず俺も、おぉ、と感嘆を洩らした。
うん十年振りかの帰郷さながらのノスタルジックに浸っていた。
「どうだった?春休み。満喫したか?」
永海に大雑把に訊いてみる。
久しぶりの友人とありきたりな会話から麗らかな春に舞い込む楽しい学校生活は始まる。そんな気がした。
「なーにが麗らかな春に、だ。お前、俺のこと友人と思ってないのか。今日久しぶりに初めて会話した友人は俺じゃないか。何なかったことにしようとしてんだ。え?」
置いてきたつもりが、いつのまにか上履きにまで足をとおしていた御古島がそこにいた。
「なんだよ。お前人の心をよめんのか?」
「小さく聞こえた気がしたんだよ」
お前はエスパーか。
「まぁ、でも確かに春なら言いかねない臭い言葉だね」
「友人の妹を狙う野郎は友人とは呼べん」
「だから狙ってないって。見てるだけだっていくら言えばわかんだよ」
「今日限りで御子島は泥棒猫と名乗れ」
「泥棒猫ってことはお前も狙ってるってことか? それは止めとけ。俺達が許しても世間様が許さない」
「気持ち悪いことを言うな」
御古島の横っ腹を肘でどついた。
すると、「それは何のことだい?」
永海が訊いてきた。
「どのことだ? こいつが妹に手を出した話か?」
御子島、それは話が発展しすぎだ。
永海は、端から御古島の会話には耳をすませていなかったようで、御古島には目もくれず俺に話をふっていた。
「おそらく、妹のことだろう」
ことの説明を永海に済ませながら、永海と泥棒猫と一緒に、二年生の使用する校舎へ足を運ぶ。
永海はその間、へぇ、とか、うんうん、とか本当に興味があるのかと疑いたくなるようなあからさまな仕草を続けていたかと思うと。
「是非、妹さんに謁見にあずかりたいな」と言った。
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