そして偉大なる王が命令を下す

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 「悪いけど、画像も無いし、映像もないよ。こっちは逃げるので精一杯だったんだ」  「怪我一つなく無事なんだろ? 実物を見れなかったことには残念だけど、怪我をしていないなら何よりじゃないか」  「無事なもんかよ。あちこち微妙に火傷してんだよ。風呂入るとき、結構辛かったんだぜ?」  「日焼けと思えば良いじゃないか」  「昨日のトラウマをそんな前衛的には思えない」  「なら奇跡的に生き残った時の古傷という設定は?」  「流石にそこまで後衛的にも考えられない」  「折角僕が親身なって考えているのに頭ごなしに否定とは、わがままだね」  「わがままなのか俺は?」  「そうだよ、反省しろ」  「確かに昨日の失態は反省点が多すぎるけど」  「君は恐がりだったよね? もしかして、漏らしたりはしていないよね?」  「…………」  「なんで黙るのさ」  「……ゴメン」  「謝るな。いや謝らないでくれよ。高二にもなって親友が漏らしたという事実は流石の僕も受け止めがたい」  「ちょっとだぞ? うん。ちょっとだ! セーフだって! セーフ!」  「限りなくアウトだよ。バッター交代の勢いだよ」  「……あのさ、誰にも言わないでくれよ? 幾らアレだからと言って、みんなに広まったら俺恥ずかしくてこの教室居られないからさ」  「言わないよ。ていうか、言えないよ」  天城の失態で本題を有耶無耶にした処で再度閑話休題。本題に戻ろうと思う。上代は思い出したように、冒頭の語りだしを再び話題にし、何気なしに口にしてみる。  「しかし、赤髪にピアス、そんなに派手な格好してるなら知ってそうなものだけどね。その不良君はアレだよね? 本当に君は知らないんだよね?」  「何度も言うけど」と先に足してから答える。  「本当に知らないんだ。全く心当たりがない」  欲しいワードが口から出てきたのを見計らい、その言葉に指をさして赤でラインを引く。  「其処だよ。心当たりがないなら、記憶辺りも無いということじゃないかな?」  「何その言葉遊び。あ、いや、でも、記憶って言っても、たった一か月間の話だぜ? それだけの期間であの不良男と仲良くなるだなんてどんなミッションインポッシブルだよ」  彼の言い分も何処か頷けるのか「まぁ確かに」と納得し、最初の勢いがやや低速する。止まりかけたエンジンを再度稼働させようと、上代は適当に操作してみる。
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