愚者に戦を唱えるは――

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 「まぁ、無いです。貴方の事も、その……『くれいじーてらー』でしたっけ? それも余り、というか全然知りませんし、貴方の事も知らないです。貴方の口にしてる内容は全部といっていいほど、全く心当たりがないです。もしくは記憶がないです。なんか俺を頼りにして来たみたいですけど、力になれなくてスイマセン」  頭を掻きながら、斜め三十度ぐらいのお辞儀をする。第一投のよりかは、それ程敬意は感じられないが、それほど大差も無く、関係もないだろう。  「笑えねぇ。全く以て笑えねぇ」  男は額に手を当て、逆立つ髪に一緒になって指を流れに沿える。悔しそうに現状を嘆き、歯を噛みしめていた。  剥き出しになるその歯、悲痛さが何も言わずして伝わり、何処となく無力な感じがして此方としても非常に無情な気持ちになってくる。  暫くその状態が続き、ダラリと腕が、体がだれていた。フラフラと、力なく数少ない一本の街灯へと体を預けた。細い体を手で掴む。  「じゃあ、どうすりゃいいっつーんだ」  噛みしめながら呟かれたその言葉。周囲に人がいたらかき消されてしまうようなこの暗い背景に適した、暗い言葉。少なくとも自分が関与しているのだろうと、分かっているのだが、その原因が何かわからない以上、掛ける言葉はどうしても安い言葉になってしまうのだ。  「えと、あの、」とどんな言葉を掛けていいか分からずどもっていると、急に道が暗くなった。
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