愚者に戦を唱えるは――

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 別に停電と言う訳でも無く、全ての街灯が消えた訳でもなく、唯単純に、彼がもたれかかる一つの街灯の明かりが消えただけだ。  それだけなのだが、唯でさえ少ない明かりが消えれば当然こんな舗装されてない裏ルートみたいな道はそれだけで薄暗くなってしまうのだ。  その時は、「あ、消えた」程度にしか思っていなかったのだが、それが違和感だと気づくのに、時間はいらなかった。  なぜなら、彼が握る街灯からメラメラと微々たりながら、火が出ていたからだ。火の光が、照明代わりとなってくれる以上、街灯に引火している火の存在に気付くのは必然でもあろう。  問題は、『何時、火が付いた』かである。見る限り、もたれかかっているだけであり、火をつける瞬間は見ていない。  それ以前に、態々街灯に引火させた処で、何一つメリットがない。何故、火があるのか。そして、不良男は何故火についてノーリアクションなのか、現場に対して、未知だけを感じている一方、耐えていたものが溢れるばかりに激昂が露わになる。  「ならッ!」  怒りに身を委ね、力強く、渾身の勢いで、全力で街灯を握り拳で叩くと同時に、一瞬で街灯が炎に包まれた。  「この力はどうすれば良いって聞いてんだ畜生がァァ!」  物凄いスピードで全体に引火したと説明すれば合理はいくが、この燃え方はそんな理屈で説明できる燃え方ではない。まるでこの街灯から炎を発した、否、この街灯そのものが炎にでもなった勢いで、街灯は灼熱の業火で、紅蓮の劫火で、凄まじい熱でこの場の空間を焦がしていく。  これだけ離れていても、感じる熱気。時期は五月にも関わらず、とめどなく溢れ出す時期にふさわしくない汗。発汗量が秒単位で増していく反面、常軌を逸したこのシチュエーションで停止した脳が一発で活発に反発的に動き出す。  そして真っ先に感じたのが『恐怖』。
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