愚者に戦を唱えるは――

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 「うっ、うわぁぁああぁ!」  何も考えず、本能のまま、無意識に体が動きだす。兎に角炎から離れようと、体は炎のある場所からみるみる遠ざかっていく。  体感する気温、というよりかは最早温度に近いその熱が見る見る引いていく事から、逃走に成功したのは後ろを見なくても分かるのだが、何分、ただでさえ見晴らしが良く、暗い道の中央でキャンプファイヤーの如く燃える炎を見失うのは流石に難しい。熱は離れても、朱い光だけはどれだけ距離をとっても付き纏っていた。  「逃げてんじゃねぇぞ糞がァァァ!」  炎に飲まれた棒をさながら剣の様に持ち、刀の様に振るいながら、紅の魔物がゆっくりと、じっくりと、ひとひとと近づいてくる。恐怖という得体のしれない、近寄りがたい物を抱えながら、食事好きの魔物は迫ってくる。飲まれたら最後、体の芯という芯まで噛み砕かれ、死だけが残る。  完全に逃げ腰だった天城は足がすくんでしまい、その場で弱弱しく座り込んでしまった。  「ややややめてくださいぃぃぃぃ!」  ◆   こうして、彼、天城総司は出会ったのだ。  『未知なる異常』に。  この出会いが、彼を普通の世界から、異常な世界に引きずり込む。  ファンタジーにも、SFにも負けない、クレイジーな世界は今、この時、開幕するのだ。
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