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約束の駅には30分も早くついた。
たまに買い物に来たことのある駅。通過することは何度かあったけど、降りたのは久しぶりだった。
多くの路線が通っているこの駅は、平日には通勤ラッシュと帰宅ラッシュで人が溢れ、休日は駅から直結している商業施設やショッピングモールもあることから一日中多くの人が行き来し常に賑わっていた。しかし少し外れればオフィスやタワーマンションが立ち並び、閑静な町並みが続いていた。
平日のこの時間に降りるのは今日が初めて。車窓から見ていた景色よりも人がごった返していて、学生や会社帰りの大人が帰路についたり飲食店に向かったりと、前に来たときよりも賑わっているように見えた。
集合時間まで時間があるから、駅のホームの待合室で時間が過ぎるのを待つことにした。
落ち着かない。
流れる景色を眺めてはケータイで時間を確認し、5分も経ってなくて。もどかしさを覚えてはまた景色を眺める。時間が早く過ぎてほしいような、ほしくないような。どっちにしても必ずその時間は来るのに、心の中でせめぎ合っている。
そんなことをしている間に、もうその時間は来てしまった。
集合10分前。集合場所へ向かうため立ち上がり、改札を出た。まだまだ人が多い。スーツ姿の人は多くいるけど、あの男ならすぐに見つけられそうだ。
郡司という男。40代くらいだろうか。スーツで黒髪で、前髪は流していて、どこか影のある男で。
「こんばんは」
「わっ」
背後から声がして驚いて振り向くと、スーツの男。
ではなくて。
茶髪の若い大きな兄さんが立っていた。
「えっと」
「岡部……くん?」
誰だこの人は。180センチくらいありそう。こんな知り合いいたっけ。どこかで会ったか?
必死に思い出す。ここにいるということは、この辺に住んでいるか、ここに学校があるか。男は明らかに年上。大学生くらい、だろうか。となると、小学校が同じだったとか。
「この写真、岡部くんだよね。」
男は淡々とした様子でケータイの画面を見せてきた。
なんで、この写真を。
写っていたのは中学の卒業アルバムの写真だった。驚いて反応さえできない。なぜこんな写真がこんなところに。
混乱しすぎて反応できなっただけだけど、それを肯定と捉えたのか男は頷いてケータイを戻した。
「一人?」
「……はい。あの、何も聞いてなくて」
たしか、指定は無かったはずだ。もしかして、ここは二人で来るのがセオリーだったのか?だとしても真を連れてくるなんてことは絶対にしない。だけどここで門前払いを食らったら全てが終わる。まずかったか。
「駄目、でしたか」
「いや、駄目ではないけど……。それは後からで。さっそく行こう。あと郡司さんは来ないよ。俺は里田。よろしく」
「よろしく、お願いします」
郡司さんの代わりにこの人が来たんだ。来るのは郡司さんだと思っていたし、そうじゃなくてももっと歳上の人が来るものだと思っていた。
「詳しくは車の中で。こっち」
里田さんはごった返す中でもスルスルと駅内を通り抜けていく。ロータリーを越えて、大通りから少し外れた路地裏へ回ると黒いハイエースが停められていた。ガラスにはスモークがかかっていて、いかにもといった雰囲気が出ている。
「ここから少し移動する」
里田さんが後部座席の扉を開けてくれた。こんな、いかにも怪しい車に乗るだなんて。どこに連れて行かれるのだろう。ダッシュすれば逃げれるんじゃないか。いろんな想像が頭を過る。行きたくない。
行きたくない。
「乗って」
足が止まっていたことにも気づかなかった。
「すみません」
やばい、めちゃくちゃ怖い。咄嗟に出た声は震えていた。
やっとの思いで乗り込み後部座席へと座る。運転席に座ってる人はまた別の男の人。この人も郡司さんではない。20代くらいだろうか。関わる人みんな郡司さんくらいだと想像していたために予想がつかない。40代ではないのは明らかだ。
「橋本です」
落ち着いた声。
「岡部です。よろしくお願いします」
助手席に里田さんが乗ったところで、車は静かに走り出した。
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