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一方で、紫月は私室のある奥に引っ込んで支度に勤しんでいた。契約風景など幾度も見たもので、今更どうということはない。ただ、異物を受け入れきれるかどうかだけを考えていた。 「――探し人か」 大方の予測はついている。しかし、傍観者であることを強いられている紫月には、必要以上のことを話す権利が与えられていない。 義務を果たさなかった代わりに、権利を剥奪されているだけのこと。自業自得だ、誰のせいでもなく自分自身の責任なのだから、権利の剥奪――人はそれを罰と呼ぶのだろうか――を受け入れていた。 「おれたちには、あいつは眩しすぎる」誰ともなく呟いた。 勇者の素質がある。素質のない人々の想いは、臆病なところで理解できるだろう。 紫月の左目が疼いた。彼は左右で瞳の色が異なり、左は青、右は紫。そして時折、なにもしていないのに左目が痛むことがある。 仕方ないことなんだと全てを受け入れる、言い替えれば諦めがちな少年。 彼にも、悠には言えない秘密がある。まだ言うべき時ではないと自身が思っているからだが、ユエが現れたことで状況が変わった。間違いなく平穏はいとも容易くぶち壊される。それはあの少女が望もうと望まなかろうと、そう遠くもない未来に待ち構えている。 経験上、識っていることだった。
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