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闇より暗い空には無数の星が凍りついたように輝き、その荒れ果てた地を照らしていた。 見渡す限りの草原。豊かに繁る緑には荒野という言葉など似つかわしくもないが、その背後に迫る廃墟はかつてそこにヒトがいたことを示しているように思える。 青年が抱くのは見知らぬ少女。眠っているように見えるのだが、死んでいるのは誰の目にも明らか。それでもまだ体には温かさが残っていた。 青年は自分の頬に涙が伝っていることに気付く。誰とも分からぬ少女の為に泣いてやれるのは、おそらく自分しかいないであろうことも何とはなしに感じる。 少女から温もりが失われていくと同時に、体の末端から少しずつ砂のような粒子と化していく。生命活動を終えたものは砂となる――それが、世の常。 彼女が砂になり尽くしてしまった後、それを吹き飛ばさんとするような一陣の風が吹く。青年は思わず彼女だったモノを一掴みだけ残した。黄土色のさらさらした砂は、ともすれば零れ落ちて失ってしまいそうになる。生命だった砂など幾度も見、また名も知らぬ少女であるにも関わらず、それがひどく愛おしく感じられた。
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