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男が二人。喫茶店の開店準備をしながら、今朝もいつものように夢の話をしていた。
「今日も例の夢か」
「彼女は何を伝えたいと言うのでしょうか?」
「少女、ねえ。容姿とか何か覚えてないか?」
暫しの間が開いてから。青年の方が思い出したように言葉を紡ぐ。
「肩くらいの金髪……ブロンド? 青い目だったような……服。砂になるヒトはいつも軍服っぽいもので、その後のヒトはいつも違うような」
少年の方が天を仰ぎ、大袈裟に一つ溜息をつく。少なくとも、青年にはその仕種が大袈裟に見えた。
「なあ、兄貴」
「紫月が兄貴と呼ぶなんて、明日は嵐ですか」
「からかうな。……もし、自分が知らない知人が訪ねてきたら。お前はどうする?」
「それじゃ知人とは言わないかと」
青年が手慣れた様子で朝食を作っている。熱された油がはぜる音と共に、食欲を誘う匂いがフロア清掃をしている紫月のところまで漂ってくる。
「朝食できましたよ、パンは自分で」
向かい合って座る。件の夢の話が済めば、あとは話すことなどほとんどない。どちらも黙々とベーコンエッグ、レタス、パンを喉へ流し込む。紫月が顔を上げると、自然と青年の右腕に視線が吸い寄せられてしまう。――数年前から、彼の片腕は義手だった。
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