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悠がいることに気づいているのかいないのか、少女は唐突に歌い出した。透き通った声は感情に欠け、氷のよう。それでも、どういうわけか少女から目を離すことができなかった。聴いたことのない歌、しかしどこかで聴いたことのあるような、不思議な懐かしさを感じさせる歌。一通り歌いきった後、少女は悠に近寄ってほんの少しだけ微笑んだ。悲しげに見えるその顔を見、そよぐ風に少女の金糸の髪が肩口を払う。 「忘れてしまったのか、全て」 少女が言った。吸い込まれそうな薄氷色の瞳が揺れ、その目か反らされた瞬間、入ったはずの路地も、あったはずの広場もなく、店の前に戻ってきていた。幻でも見たのかと悠は思ったが、隣に立つ少女が先ほど見たものは現実だと証明している。 「紫月に会わせてもらえるだろうか」 再び少女は口を開いたが、今度は幾分か和らいだ口調になっていた。 「知人ですか?」 「ユエと言って通じるはずだ」
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