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「悠、よせ」 紫月の制止は耳に届いていないようで、ふらふらと少女の傍へと歩み寄る。ユエの肩を掴み、晒されている首筋に悠は顔を近づける。甘い香りが更に強くなった。 「駄目だよ悠。忘れてしまったというのなら、それはきっといつかのきみが望んだことだ。僕の血を飲めば、今までと別れを告げる覚悟を決めろ」 「不思議なものです……先日、血を分けていただきましたからまだまだ余裕なはずなんですが、乾いて仕方ない」 「……きみがそう望むのなら、僕は拒まない」 鋭い犬歯が柔肌に沈みこみ、小さな切り傷を生む。悠には甘く感じる鮮血を傷口から滲ませ、ユエは小さく息を吐いた。両手が行き場をなくしてさ迷うのを、少女自身の目で見つめる。首に食らいつく青年の後ろ髪をひどく優しい手付きで撫でて、大切なものを、二度と失いたくないものを抱くように包み込む。 吸血鬼との契約により与えられる絶対の快楽に身を微かに震えさせながらも、ユエは二人の探し人のことを考えていた。
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