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「じゃが、其方がここに来たのじゃ。
今更、弁明も弁解も無意味。しかし、一応決めておかねば、なにかと不便であろう」
「まさか、俺の事を知ってるなんて、ちょっと驚きだよ。
先々代の国王にでも、もしかして聞いてたのかな?」
「まあ、それだったら、城の中に人がいないのも納得だ。
意外と利口で、潔いじゃんか」
部屋の中は、執務室に使っているのか、見渡す限りの本だった。部屋を囲むような形で、本棚が視界を埋め尽くすんだ。
そして、難しそうな無数の書類が、束となって床に散乱していた。こんな所にいて、息が詰まらないのか、俺は耐えられないだろうね。
「御名答。この城にいるのは、ワシと其方の二人だけじゃよ。
其方がワシの知っておる者なら、数万の兵士でも足るまい」
「それに、ワシは優秀な部下を、死ぬとかっていて、戦わす気などないのでな。
国とは、いつでも優秀な人材に、飢えておるものだ」
こんな部屋にいるだなんて、俺だったら一日も我慢できないよ。すぐに焼き払う、この部屋の物全てね。
部屋の奥に置かれた執務机、その上に座りながら微笑んだ。そんな王様に、素直に拍手を贈りたいよ。
もっと違う、阿呆な奴だと思ったのに、意外と立派なんですもん。俺の正体を知っていながら、逃げださないんだからさ。
「じゃあ、なんで俺がここに来たのか、わかっているよね。
今の姿を見たら、あの時の国王様も、泣いちゃうだろうよ」
今から死ぬとわかっていて、こんなにも堂々としているんだ。これこそ正に、王様の鏡って奴だね。だけど、こんなにも利口なのに、あんなことをしたんだから、人は見た目によらないよね。
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