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中に入って、俺はただその人を見ていた。 『そこ、座って。』 『あ、はい。』 俺は大人しく、指定された場所に座った。 『はい、どうぞ。』 テーブルにコーヒーが置かれた。 『ありがとうございます。』 俺がお礼を言うと、その人は俺の正面に座った。 『まだ、自己紹介してなかったよね?? 僕は、中丸雄一です。和也くんの主治医をさせてもらってます。』 『俺は赤西仁です。』 『よろしくね。 それで、和也くんの話だよね??』 『...はい。』 『何が聞きたいの??』 『...かめは本当に治らないんですか??』 『あぁ。今現在、効果的な治療法は無い。』 『...。』 『今は、はっきりと症状は出てないけど、近いうちに、必ず出てくる。』 『どんな??』 『症状としては、記憶障害。それから、手足の麻痺やけいれん。 そして、最終的には呼吸障害を引き起こす。』 『先生でも、治せないんですよね??』 『悔しいけれど、僕も治せません。』 『...そうですか。』 『でも、諦めない。』 『...。』 俺は黙って顔を上げた。 『僕は決して、諦めない。 今、出来ることは全力で、全てやる。』 『...俺は、どうしたらいいですか??』 『君には、君にしか出来ないことが、必ずある。』 『俺にしか出来ないこと...??』 『そう。さようならって、簡単に出来るような気持ちなの??』 『そんなこと、出来ません。』 俺はつい、前のめりになった。 『僕は、それでいいと思う。 側に居て、赤西くんが赤西くんのまま、和也くんと向き合えば、それだけでいいんだよ。』 『...はい。』 なんだか光が見えた気がした。 『すっきりした??』 『はい、ありがとうございます。』 俺は立ち上がり、頭を下げた。 『俺、頑張ります。』 俺はそう言って、もう一度頭を下げ、その場を出ていき、家に帰った。
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