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セミの大合唱が響き渡る七月中旬、武井市、棚町の棚町小学校では夏休みが近いため子供達が早くも騒いでいた。その中でも特にやかましいのは6年1組の上杉勝郎だ。気温は30℃近いが、この褐色の少年は機関銃のごとくしゃべり続けている。「おい、光太郎!4時44分に屋上の隅にある物置に行くと異世界に引きずりこまれるらしいぜ!」「有り得ないね。第一、異世界なんて存在は確認されてないんだよ。ワームホールだって発見されてないしね。」と勝郎に話しかけられた少年は答えた。この小学生らしからぬ言葉を使う少年の名は吉崎光太郎。幼稚園のころから勝郎とは仲が良かった。正反対の二人が親友なのは棚町小の七不思議の一つである。「ワームホール?バスでも釣るのかい?」「ルアーじゃないよ。これは時空に穴があいて、そっから別の世界にいけるのさ。もちろん、そんなものは証明されてないけどね。」光太郎はやれやれといった感じで説明した。勝郎が反論しようとした時、「やかましい!静かにせんか!」と担任の山田剛が二人を怒鳴った。彼らは授業中に話をしていたのである。ましてや、今のご時世に珍しい熱血教師、通称ゴリラの授業中にである。ゴリラは生徒達に厳しく、ひどく恐れられている。勝郎達も普段はこのような危険は冒さないが、夏休み効果は恐ろしいものだ。「しかしゴリラも夏休み近いんだから、少しは多めに見ろよな」「仕方ないよ。公務員の夏休みなんて仕事でほとんどないからね。」授業が終わった後、二人は椅子に座って話をしていた。「そいでさっきの続きなんだが、昔は神隠しってのあったんだよ。つまり、屋上の異次元の話もまんざら嘘じゃないってことさ!」「神隠しの話は聞いたことがあるけど、この学校で生徒が異次元に行ったっていう証拠はあるのかい?」「お前はいつも証拠証拠って翔子が好きなのか?」「今は関係無いだろ!それに字が違うじゃないか!」いつもは冷静な光太郎少年が動揺している。ちなみに翔子とは、勝郎達のクラス1のかわい子ちゃんなのだ。「そう熱くなりなさんなって、翔子が見ているよ」彼は慌てて辺りを見回した後に、冗談だと気づいた。「光太郎お前も体験すれば分かるだろう、異次元旅行を。だから、検証もかねて今日の放課後行ってみようぜ」こうして放課後の4時44分に屋上に行くことになった。
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