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作業服を身にまとった技術者が、発動機周りを入念に調査し、用箋挟に閉じられた用紙に特徴を書き込んでいく。
またある者は翼の上に立ち無数にある窓から機内の様子を確認する。
草鹿と樋端ら将校は、それらを指揮し上がってきた報告を次々と纏めていくが、情報が集まれば集まるほど彼らの脳内は混乱していった。
「・・・うん、やはり行方不明機の情報はないか」
「旅客機のようですが、機内は酷く物が散乱しておりましたが無人のようでした」
機体を一通り観察した二人は、同じ疑問を持ち、頭を捻る。
機内には明らかに客を乗せて航行していた形跡が残っていた。
これはつまり一度離陸して飛行していたと考えるほうが自然だろう。
にも拘わらず、不時着水時の衝撃を物語る破損、例を挙げると機体の変形や損壊が全く存在していない。
この不明機は完璧そのものだった。
まるで、離陸したばかりのような。
「もしかしたら、誰かが乗客を拉致した後、機体を海に捨てたのかもね」
草鹿が頭を掻きながら適当な憶測を口にする。
「勿体無い、捨てるなら海軍にくれたら良かったんですが。これだけの金属があれば、九六艦戦が
何機造れるか」
「ははっ、違いない」
二人が半ば匙を投げかけて、軽口を交わしていたとき、
「おいっ、入り口が開きそうだっ!!」
頭上から、威勢のいい声が降ってきた。
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