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・・・
・・・・・・
「・・・・・・頭いてぇ」
それが、高野が目覚めた時の第一声だった。
高野は朧気な目で、むくりと上半身だけ起き上がる。
背中が接している床が堅く、冷たい。
どうやら、自分は座席ではなく、通路に倒れていた、と認識するまでそう、時間は掛からなかった。
「何がどうなったんだ、畜生」
体をあちこちにぶつけたのか、全身が、特に右手が痛い。
高野は試しに手を握って、開いてみる。
暖かな皮膚の感触があったし、伸びすぎた爪が手のひらに食い込んで、多少痛かった。
・・・ああ、これなら、大丈夫そうだな。
他にも痛む所はあるが、あまり酷い怪我では無さそうだった。
「・・・みんなは?」
高野は肘掛けに手を突いて立ち上がる。
辺りを見回す。
そして、愕然とした。
頭を鈍器で殴られたかのような錯覚を覚えた。
当然、彼の目には血まみれで助けを求める負傷者、あるいは遺体が映るはずであったが、
消えていた。
床には手荷物や、収納エリアから落ちた荷物が、竜巻でも起きたのか、と思わせるくらいに散乱している。
まだ飲み物が回収され終えて無かったのだろう。
床や座席に珈琲が染み着き、香ばしい香りを放っている。
温かみの残る毛布が座席に引っかかっている。
だが、誰もいない。
人が、そこにはない。
文字通り、乗客全員が消失していた。
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