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「よし、爆撃進路に入るぞっ!奥田、電信『突撃形態作れ』」
藤田の後ろで奥田曹長が電信機を叩く。
「トトト・・・・・・」と単調な符号のト連奏だ。
編隊はすぐさま単縦陣から逆V字型の編隊へと移る。
夜間で視界が悪い中、一連の動作をまるで滑るようにスムーズにこなす。
それから伺い知れるように、彼らの技量は高かった。
編隊はゆっくりと弧を描くように旋回して、高度を200mに定める。
この時、一発も射撃を受けることなく、悠々と目標を定めることができた。
目標は石油集積所の丸い石油タンクだ。
「奥田、見えるか!?」
「はい、くっきりと映っています」
後部座席の奥田は、改良で付け加えられた九○式1号爆撃照準器2型を覗き込んだ。
「もうすぐ、目標に到達する。しっかりやれ」
「はい・・・っ、目標、視認しました」
藤田の肩が俄に力んだ。
「・・・ちょい、右、右・・・行き過ぎ、・・・ヨーソロー」
奥田は十字の照準線を頼りに未来位置を予測して藤田に修正を求む。
藤田はそれに答え、ラダーペダルを繊細に踏んで微調整を行った。
「ヨーソロー・・・、ヨーソロー・・・・・・」
程なくして、十字線の中心が円柱形の大きなタンクに重なった。
奥田は一瞬息を止める。
当たってくれ。
そう心の中で念じながら、思いきり投下索を握った。
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