第3章:開戦

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「奥田っ、どうだっ!」 奥田は明らかに高揚している藤田の声で、目が覚めた。 これだけ大きな爆発だ。 聞かなくとも結果はわかる。 しかし、藤田は自分の耳で、奥田の声で戦果を確かめたかった。 「全弾命中!集積所は壊滅です!」 奥田は期待通りの戦果を伝える。 「大分、明るいか!?」 「はい、集積所近くは、昼間のようです!」 「分かった。旋回はナシだっ。このまま高度を下げて海に逃げるっ、発光信号!」 奥田は言われた通りに小型のライトを使って、後続機にその旨を伝える。 藤田はバンクを振って、降下に移った。 対空砲はまだ、撃ち上げてこない。 藤田はその余裕の中、チラリと後下方を振り向いた。 瞬間、息を飲んだ。 身震いする。 同時に背中に冷や水を掛けられたような感覚を覚える。 藤田に畏怖の念を抱かせた物。 石油集積所の火災の光で朧気に姿を見せる、巨大な戦艦群がそこにはあった。 米太平洋艦隊所属の戦艦群だ。 十分離れているはずなのに感じる、圧倒的な威圧感を放つ戦艦。 この距離をもってしても、漂うのは冷徹な鉄の匂い。 それは、航空機のそれとは異なる重量感を持つ。 怖くなった。 ・・・日本は勝てるのか? この戦艦に、それを保有する米国に。あれに体当たりでもすれば、少しは損害を与えられそうなのだが。 藤田は首を大きく降って雑念を取り除いた。 ・・・一端の下駄履き乗りが考えても無駄な事だ。 戦略はお偉いさんに任せて、俺たちは、ただ、与えられた任務をこなすだけ。 あれに勝てる策略があるとを信じて。 藤田隊は後ろ髪を引かれる思いで、海上に退避した。
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