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いやいや、そんなはずはない。
高野は首を振って、自らの思考を断ち切る。
だが、高野に話しかけてきた軍服姿の男。
よく見ると、それは見覚えがある顔だった。
実際に顔を合わせたことはない。
だが、知っている。
写真で見たことがある。
「もしかして、草鹿龍之介少将ですか?」
高野は思い切った質問をしてみることにした。
いきなりで不躾と思われるかもしれないが、彼には確証があった。
「ん?私はまだ、大佐だが・・・・・・、はて、どこかで会ったことがあったかね?」
草鹿は驚いたように目を開き、高野の顔をまじまじと見つめた。
間違いない。
この人は、真珠湾攻撃時の第一航空機動艦隊航空参謀の草鹿龍之介少将だ。
「・・・私の顔に何かついているかね?」
「いえ、何でもありません。そちらは副官の方ですか?」
高野は後ろに控えている30代後半の将校を見る。
「いや、俺は連合艦隊参謀の樋端だが」
高野は樋端を副官と勘違いした事を謝り、一度、深呼吸をする。
高鳴る鼓動を落ち着かせる。
「今は、西暦何年ですか?」
そして、核心を突く質問を投げかけた。
「おかしな事を聞くねぇ、君は。今は、昭和14年、西暦1939年の3月5日だけど?」
そう答えた草鹿の顔は、嘘をついているように見えなかった。
これは演技などではない。
高野は確信した。
自分が時空を超えて、昭和の時代にタイムスリップしてしまったことを。
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